伝統を守りつつ斬新な「YANAGAWA SAGEMON」(やながわさげもん)

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ステンレスのオーナメントと絹糸の小さな鞠(まり)が揺れる「さげもん」。その美しくスタイリッシュなデザインは、柳川の伝統品「さげもん」に新風を起こしました。
作ったのは、金属精密加工を手がける石橋鉄工所の皆さん。
開発の経緯とデザインへのこだわりを、代表取締役社長の石橋輝喜さんにお聞きしました。

石橋鉄工所

石橋鉄工所の石橋さんとスタッフの皆さん

柳川には、女児の初節句に、健やかな成長と幸せを願ってお雛様や「さげもん」を贈る風習があります。「さげもん」とは、布や糸などで鞠や縁起物を作って吊るしたもの。一つひとつ手作りされ、作る人・贈る人の思いが込もっています。

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まりや縁起物を作って吊るす「さげもん」

新ブランドを作ってユニークなものづくりに挑む
石橋鉄工所ではブランド「unimet(ユニメット)」を立ち上げて新しい商品を次々と発表しており、「さげもん」もその一つです。

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洗練されたスタイルで注目を集める「さげもん」

ユニークなものづくりのきっかけは、リーマンショック後の不況でした。同社は産業用機械が中心だったため、「何かしなくては」と消費者向けの商品作りに挑戦。高度な研磨技術を活かしてステンレスのコースター作りを始めました。

しかし、最初にできたのは厚くて重いコースター。しかも高価です。知り合いのデザイナーさんから「誰が買う?」と聞かれ、石橋さん自身も販売に自信が持てず、加工・研磨をやり直す日々でした。

その後、デザイナーさんにデザインを依頼。渡されたデザインは、加工の難しいものばかり。景気が回復して従来の金属加工業務が忙しくなり、それと並行して行う開発は大変でしたが、「何とか形にしよう」と悪戦苦闘が続きました。

薄くてかっこいいステンレス製コースターの誕生
「困難に向かっていると、技術って向上していくんですよね」と振り返る石橋さん。妻の香織さんら女性スタッフを加えて、2年がかりでイメージ通りの薄くて美しいコースターが完成。2021年に発表すると、大きな反響を呼びました。

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会社ロゴや商品キャラクターを配したコースターはノベルティとして人気

コースターの図柄はパソコンで描き、レーザーでカットしていきます。力仕事ではないため、金属加工の知識も技術もなかった女性スタッフが今では中心となってデザインし、作っています。

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レーザーでカットし、刃を替えながら丁寧に研磨します

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精緻な加工が美しいコースターはインテリアにもなります。シリコンは取り替え可能です

デザインへの追求が技術力を高め、独創的なオーナメントへ、そして「さげもん」へと発展しました。

高い研磨技術で柳川の伝統に新風を吹き込む
柳川で鉄工所を営み、柳川への思いも強い石橋さん。住宅環境の変化から「さげもん」は飾りにくくなっているため、「2段飾りのお雛様に合う小さなさげもんを作りたい」と、さげもん作りを始めました。

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柳川の伝統的なひな飾り。七段のお雛様の周りに鞠や縁起物で作った「さげもん」を飾ります

最初は、布の縁起物の代わりに作ったオーナメントだけを吊るすつもりでしたが、華やかな鞠を入れてこそ「さげもん」という思いもあり、鞠を加えることにしたといいます。

鞠は、色とりどりの糸を巻いて桜や梅、菊の花などを表現します。二面に菊を表した二つ花が伝統的な柄で、近年はリリアン糸を使っています。

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美しい花を表現した柳川まり

しかし、光沢のあるステンレス素材に太くて色の濃いリリアン糸は合わなかったのだとか。金属の硬質で頑丈なイメージとは対極にある、はかなく繊細なデザインへのこだわりもあり、いろいろ試した結果、光沢のある極細の絹糸がしっくりあったといいます。

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直径3センチほどの小さな鞠に極細の絹糸を巻いて仕上げます

極細の絹糸を使った鞠づくりに四苦八苦
そこから鞠の作り手探しに奔走。小さな鞠に絹糸を巻く方法にとまどいはあったようですが、「二つ花の伝統的な鞠を作りたい」という石橋さんらの熱意に共感を得て、作り手を見つけることができたのだとか。

色使いを決め、実際に糸を巻いてもらったのですが、イメージしたグラデーションにならず、ここでもやり直しが続きました。
「もう一度、お願いしますと言うのが心苦しかった」と、香織さんは振り返ります。

何度も話し合い、作り直してもらって、金属を使いながらも上品な「YANAGAWA SAGEMON(やながわ さげもん)」が完成!
鞠やオーナメントは自由に組み合わせでき、家紋や名前などを入れたオリジナルのオーナメントを作ることもできます。

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ステンレスのオーナメントは入れ替えが可能

大川市の木工職人に依頼した什器によって、インテリアとして一年中飾ることができるようにもなりました。鯉のぼりへの転用もできそうで、アイデアは次々と湧いています。

長く続いている「手作り」の伝統を大切にしたい
発表以来、この「YANAGAWA SAGEMON」は、首都圏のラグジュアリーホテルなどから問い合わせがあり、遠くは東南アジアやヨーロッパからも問い合わせもあります。

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これから量産に向けて、鞠の作り手が必要。鞠づくりは、子育て世代の女性などが在宅でできるものです。「目指せ、日本一高給の内職!」を合言葉に、若い作り手を増やしていきたいといいます。

手作りしなくてもいいのでは…という意見もあるでしょう。しかし、石橋さんらは「手作りにこだわりたい」といいます。「それが柳川の伝統だから」と。

節句文化を含めて柳川から国内外へと発信
柳川の人は昔から創意工夫をし、さまざまなタイプの「さげもん」を作ってきました。それを見て回るのが楽しみの一つでもありました。

「さげもんが長きに渡って続いているのは、柳川の人々が贈る人への思いを大事にし、手仕事を続けてきたからでしょう。伝統はすぐにできるものでなく、お金で買えないものです。私たちもその伝統を大事にしていきたいです」。

子どもの幸せを願いながら作る柳川の「さげもん」。その文化も含めて「YANAGAWA SAGEMON」を発信していきたいと、話す石橋さん。
この「さげもん」は斬新さの中に伝統と希望を包み込み、創造という大きな翼を広げて柳川の地から全国へそして海外へと羽ばたこうとしています。

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ステンレス製コースターやアクセサリーなどを展示販売するショールームもあります

■DATA
◯商品名:YANAGAWA SAGEMON
◯価格:5本飾り217,800円、1本飾り44,000円(税込)
◯取扱店:自社オンラインショップ、ほか
◯お問合せ:石橋鉄工所 TEL 0944-88-8685 ホームページ
◯企業概要:「日々挑戦」を理念に最先端の設備と熟練された技術を最大限に活用し、産業機械向けの金属加工品製造、金属製品の開発・製造・販売を行う。

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投稿者プロフィール

ツツミ
ツツミ
柳川市大和町出身。幼少の頃は体が弱くて本がお友達。以来、書くのが好きになりました。リズムを意識した文章で柳川の“わくわくドキドキ”を発信していきます。
(写真はパワーチャージ中)