軽くてコンパクトな焚き火台「ヨコナガメッシュタキビダイ」

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コロナ禍もあり、ソロキャンプやグランピングなど新たなスタイルでブームとなった“キャンプ”。柳川では水門を手がける鉄工所がスタイリッシュな焚き火台を製造発売し、話題を呼んでいます。開発意図や製品のこだわりについて、乗富鉄工所代表・乗富賢蔵さんにお話を聞きました。

乗富鉄工所

乗富鉄工所

乗富鉄工所代表・乗富賢蔵さん。鉄工所のイメージを一新するようなフリーアドレスの事務所です

福岡県下最大の水門メーカー
地元・柳川のクリークの水門をはじめ、さまざまな水利施設事業を手がけてきた乗富鉄工所。設計から据付まで一貫して行い、福岡県最大の水門メーカーとして成長を続けてきました。近年はこれらの技術を生かして歩道橋や公園のオブジェといった景観製品の製作なども進めています。

乗富鉄工所

大小さまざまなタイプの水門を手がけています

乗富さんは会社のブランディングの一つとして新規事業「ノリノリプロジェクト」をスタート。キャンプ好きのスタッフと一緒にキャンプ用品の製作製造を始めました。BtoCという消費者向けの製品づくりは会社にとって初めてのことでもありました。

職人の技術を生かしてキャンプ用品づくりに挑戦
最初に作ったのは他メーカーの焚き火台に設置できるゴトク(五徳)。それから発展して、今回柳川ブランド認定品となった「ヨコナガメッシュタキビダイ」を作ったといいます。

乗富鉄工所

ステンレス製のコンパクトな焚き火台

「ヨコナガメッシュタキビダイ」は、長さ53×幅18×高さ32(センチ)、重さ1.8キロという小型の焚き火台。折りたためば高さ5センチというコンパクトなものです。ステンレス製のため丈夫で安定性もあり、別売りのゴトクを使えば重量のあるダッチオーブンを乗せることも可能。燃焼室の片方は空いているため、ゴトクを動かすことなくスムーズに薪の出し入れができます。

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コンパクトに折りたためて組み立ては簡単!

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別売りのゴトクを使えば、ダッチオーブンなどを使った料理も可能

薄いステンレスメッシュシートを凹型に設置
最大の特徴は、燃焼室のステンレスメッシュといえるでしょう。目が細かくて薄いメッシュシートを燃焼室に凹型に設置するようにしました。これによって風の影響を受けにくく、火加減はよく見え、火の粉や灰が舞い上がるのを防ぐことができます。

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薄いメッシュシートを凹型に取り付けます

見れば見るほど、使う人の身になってよく考えられたデザインだということがわかります。そして何より美しい。燃焼室のフレームは薄く、脚は細い。ステンレスの良さを最大限に生かした、シンプルでスタイリッシュなデザインが魅力的です。

「開発から完成まで2年くらいかかった」と話す乗富さん。組み立て式の構造、素材、デザインなどを「メタルクリエイター」と呼ぶスタッフと2人で話し合いながら進めたのだとか。

職人気質のスタッフと、社の代表としてブランディングや製品販売を担う乗富さんとの意見が合わず、険悪なムードになることも多々あったといいます。途中で外部のプロダクトデザイナーをプロジェクトメンバーに加え、試行錯誤を繰り返しました。

ネジ一つまでこだわった美しいデザイン
こだわったのは、やはりデザインです。「嗜好品は美しくなければ売れない」と、フレームの大きさ、脚の形、角度はもちろん、ネジの一つまでデザイナーやスタッフととことん話し合い、妥協せずに完成させました。

乗富鉄工所

細部まで妥協を許さず、美しさにこだわったデザイン

見た目が美しく、機能的な製品の完成に乗富さんは売れる自信を感じましたが、社内の反応は今ひとつ。半信半疑だったといいます。というのもそれまで社では受注製造が多く、売れる製品を自ら製造販売したことがなかったからです。

「まったくゼロからのスタート」で、サプライチェーンの構築にも苦労したのだとか。乗富さん自ら国内外の展示会・見本市に出かけ、広報・販売活動を続けました。その後、数々のデザインアワードを受賞。テレビや雑誌で紹介され、取引が増えるにつれて社内の反応は変化。「社の雰囲気はものすごく変わった」そうで、「まったく別会社のようだ」とも。入社希望の若い人も増えています。

乗富鉄工所

「A’Design Award」や「GOOD DESIGN賞」を受賞しました

「手仕事の価値」を広めたい
プロジェクトを立ち上げ、新たな製品づくりへの挑戦は、乗富さんの「手仕事の価値」を社会に広める挑戦でもありました。

同社の事業のほとんどは、開発から製造まで職人が担う「手仕事」です。「分業は人からつくる楽しみを奪うので、あまりしたくない」と、仕事のほとんどを社内で一貫して行っています。「手仕事」にはコストもかかり、それが悩み。しかし、その価値を理解してもらいたいと、消費者向けの新製品づくりを続けています。

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同社は水門をはじめとした製品の開発から製造まで担い、鉄工職人が手仕事で仕上げています

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輪ゴムを使うゴム銃も発売。自分で組み立てる楽しみを加えました

日本ブームの海外で人気に
一方で朗報もあります。海外は今“日本ブーム”にあり、日本の製品や文化に関心が高まっています。この「ヨコナガメッシュタキビダイ」はドイツで反応がよく、取引につながっているといいます。

コンパクトなキャンプ用品を持って自然の中に分け入り、自然を感じながら静かにキャンプをする。そんなスタイルに海外の方々は目新しさを感じるのだとか。禅のようにも感じて「クール!」なのだそうです。手仕事の魅力に加え、この日本の“文化”も世界に伝えていきたい、と乗富さんは考えています。

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自然の中でのんびり過ごすキャンプは海外の人にとって「COOL!」

参加自由の焚火会「TOMARIGI」を実施
この“文化”は、柳川でも始まっています。月に1回、第4金曜の夕方に西鉄柳川駅前などで「TOMARIGI」という焚火会を開いているのです。最初は乗富さんが「地元の人に製品を知ってほしい」と思って始め、知り合いだけの小さなイベントでしたが、徐々に地域住民やまちづくりに関わる方々が参加し、温かいイベントになっています。

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製品を知ってもらうために始めた焚火会「TOMARIGI」

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「TOMAIGI」は月に1回、西鉄柳川駅前などで実施しています

「社会貢献という意識はあまりないけれど、社会をいい方向にしたいなという気持ちはある」と話す乗富さん。自分の名前や業績は残らなくても文化が残り、「自分のやったことの余波が人にとって良いことにつながれば…」という希望を抱いています。

同社のサイトにこんなコトバがありました。「つくる人、使う人、伝える人。一人ひとりが幸せになれるプロジェクトへ」。
つくる力で世界をつなぎ、若い力で柳川の未来をつくる。乗富さんの思いは小さくも熱く燃え、広がりつつあります。「タキビダイ」の温かい炎のように。

乗富鉄工所

■DATA
◯商品名:ヨコナガメッシュタキビダイ
◯価格:26,950円(長さ53×幅18×高さ32cm・重量1.8kg・税込)
◯取扱店:乗富鉄工所オンラインショップ(HP)、石井スポーツ、ネットショップほか(一覧
◯お問合せ:乗富鉄工所 TEL 0944-73-6177 ホームページ
◯企業概要:1948年創業。「日本のものづくり本来の力を、この町工場から取り戻していきたい」と、「クリエイティブであること」を理念に水利施設事業、プラント施設の機械製造等を担う。毎年秋に九州各地のメーカーを集めて「ツクルフェス」を開催している。
○受賞:「A’Design Award & Competition 2024」「グッドデザイン賞

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投稿者プロフィール

ツツミ
ツツミ
柳川市大和町出身。幼少の頃は体が弱くて本がお友達。以来、書くのが好きになりました。リズムを意識した文章で柳川の“わくわくドキドキ”を発信していきます。
(写真はパワーチャージ中)